「休日なのに会社からメールが届く」「深夜のメールにすぐ返信しなければならない空気がある」……。 テレワークの普及により便利になった反面、仕事とプライベートの境界線が曖昧になっていると感じる方は多いのではないでしょうか。
海外では法制度化が進み、国内でも議論・検討が強まっています。2026年の労働基準法改正が活発に議論されるなか、企業として早めに制度設計を始めることは、働きやすさの確保だけでなく、生産性や採用力、離職防止といった経営課題の解決にもつながります。
世界的に議論されている「つながらない権利」。日本でも厚生労働省の検討会で議論が進んでおり、近い将来、企業には具体的な対応が求められるようになります。 今回は、人事担当者が知っておくべきこと、準備すべき実務について詳しく解説します。
「つながらない権利」とは何か?
「つながらない権利」とは、勤務時間外や休日に、仕事上のメールや電話などの連絡を拒否する権利のことです。 2017年にフランスで世界に先駆けて法制化されたのを皮切りに、イタリアやスペインなど欧州諸国を中心に導入が進んでいます。
日本では「つながらない権利」に関する明確な法整備は行われていませんが、厚生労働省の「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(厚生労働省HPより)において、時間外の連絡を抑制することが望ましいと明記されています。
なぜ今、この権利が議論されているのか?
議論が加速している背景には、大きく3つの理由があります。
メンタルヘルス不調と離職の防止
オンとオフの切り替えができない状態が続くと、睡眠障害やうつ病などのメンタルヘルス不調を引き起こすリスクが高まります。
企業にとっては、貴重な人材の休職や離職を招く大きな経営リスクとなります。
デジタル・タトゥーならぬ「デジタル過労」
スマホやチャットツール(Slack, LINE, Teamsなど)の普及により、24時間どこにいても連絡が取れるようになりました。長時間のパソコン、タブレットの使用によって、目・身体・脳に慢性的な疲労が溜まり、休んでも回復しない状態となり、脳がオーバーフローを起こして「脳過労」に陥り、メンタル面にも支障をきたすことが特徴です。
ワークライフバランスに対する価値観の変化
特に若手層を中心に、プライベートの時間を尊重する価値観が強まっています。勤務時間外の連絡が常態化している企業は「ブラック企業」と見なされ、採用力が低下する恐れがあります。
人事担当者が用意・準備すべきこと
「明日から連絡禁止!」と号令をかけるだけでは現場は混乱します。人事担当者は以下の準備を進める必要があります。
具体的ルールの策定と就業規則への反映
まずは自社の現状を把握し、以下のようなルールを検討しましょう。
- 「20時以降の連絡禁止」などの時間帯の制限
- 「休日の連絡には返信不要」という明文化
- 緊急時の連絡ルートの限定(例外規定の策定)
これらを「勤務時間外の連絡に関する規定」として就業規則や労使協定に盛り込むことで、会社としての姿勢を明確にすることができます。
業務フローの見直し
「なぜ時間外に連絡が必要なのか」という根本原因を探る必要があります。「特定の個人に仕事が偏っている」、あるいは「納期設定が無理がある」など、業務の進め方自体に問題があるケースが多いため、業務配分の再考が必要です。
管理職への教育(意識改革)
実は、一番のハードルは「上の世代の意識」かもしれません。「昔の自分はこうだった」「すぐ返信するのが当たり前」と考えている管理職に対し、時間外の連絡が労働時間とみなされるリスクや部下の生産性低下につながることを研修等で繰り返し伝える必要があります。
デジタル時代に「選ばれる会社」になるために
「つながらない権利」を認めることは、「従業員を甘やかすこと」では決してありません。
しっかりと休息を取ることで、勤務時間中のパフォーマンスを最大化し、結果として生産性を向上させるための「戦略的な休息」です。
「つながらない権利」に連なる準備は一朝一夕にはできません。また、日常業務の延長線上で解決するには時間的な制約もあるかと思います。
そのような場合は、自社のリソースだけでなく外部のリソースを用いることも必要です。具体的には「働く」ことの専門家である社会保険労務士の出番です。
専門家に依頼頂くこと以下の事柄を期待することができます。
- 具体的ルールの策定と就業規則への反映: 自社の業種や業態に合わせ、現場が困らないような柔軟かつ法的根拠のある規定をオーダーメイドで作成できます。
- 業務フローの見直し: 時間外のメール返信が「労働時間」と認定され、後から未払い残業代を請求されるリスクを防ぐためのアドバイスなどが受けられます。
- 管理職への教育(意識改革): 外部の専門家が入ることで、社内では気づきにくい「無言の圧力」や「悪習」がわかり、研修を通じて意識改革につながっていきます。
法制化を待ってから動くのではなく、今から準備を始めることで、従業員満足度の向上と採用力の強化につなげることができます。
まずは現状のヒアリングから承ります。貴社に最適な「オンオフの切り替え術」を一緒に作り上げましょう。
