コラム

【実録】「良かれと思って」が離職を招く?無自覚なマタハラを防ぐ「対話」の極意

はじめに

近年、働く女性の増加とともに「マタニティハラスメント(マタハラ)」への関心が高まっています。しかし、現場で起きている問題の多くは、悪意のある嫌がらせではありません。
むしろ、経営者や上司が「良かれと思って」おこなった配慮が、深刻なトラブルに発展してしまうケースが後を絶ちません。

今回は、私が実際に相談を受けたある経営者A様の事例を通じて、無自覚なハラスメントのリスクとその解決策を詳しく解説します。

祝福するつもりが・・・

先日、経営者のA様から相談をいただきました。

河合先生、困ったことになりました。長年会社を支えてくれている女性社員が妊娠したんです。身体のことが心配なので
『無理は禁物だから、今の外回りから負担の少ない事務仕事に変わるかい?』
と声をかけました。ところが後日、彼女から
『この仕事にやりがいを感じていたのに、妊娠したのでやらせてもらえないんですね。それだったら、今後この会社で仕事をしていきたくないです。退職を考えていきます』と言われてしまって……。
良かれと思って言ったのに、何がいけなかったんでしょうか


 A様は従業員思いの経営者様で、これまでも幾度となく育休制度や福利厚生の施策などの相談を頂いています。お人柄を考えるに純粋に彼女の体調を最優先に考え、会社ができる最大限の「配慮」を提示したつもりだったのです。

なぜ「配慮」が「ハラスメント」になるのか

このケースは、典型的な「無自覚なマタハラ」の例となりうるものです。

相手に寄り添わず「勝手に決める」ことの危うさ

A様は彼女の体調を気遣っていましたが、その内容は「本人の意向」を置き去りにしたものでした。プロ意識を持って働いている社員にとって、仕事内容の一方的な変更は、自分の能力を否定された、あるいは「キャリアの断絶」を突きつけられたと感じさせてしまうことがあります。

「期待されていない」という誤解

妊娠中の女性は、体調の変化に対する不安と同時に、「仕事から取り残されるのではないか」という強いプレッシャーを感じていることが多いものです。そこに「事務仕事に変わるかい?」という提案が来ると、「自分は必要とされていない」と考えてしまうこともあるのです。

ハラスメントとならない3つのステップ

私はA様に制度の解説もさることながら、「対話のプロセス」を見直すようアドバイスしました。

ステップ1:まずは「心からのお祝い」を伝える

優秀な経営者様ほど、「おめでとう」の直後に「さて、産休はどうする?仕事は?」と実務の話を急ぎがちです。しかし、まずは一人の人間として、新しい命の誕生を喜んでいることをしっかりと伝えてあげてください。ここを飛ばすと、後の言葉がすべて「事務的な調整」に聞こえてしまいます。

ステップ2:公的な制度と会社のルールを説明する

産前産後休業、育児休業、それに伴う給付金について説明しましょう。 「会社は君にずっと残ってほしいと思っている。そのために使える制度はこれだけあるよ」というメッセージを伝えてあげることが、彼女の安心感に直結します。

ステップ3:本人の「どう働きたいか」を聴く(傾聴と提案)

ここが最も重要なステップです。会社が勝手に判断するのではなく、相手によりそい
君はどう働きたいと考えているかな?
と問いかけてください。

 その上で、「もし体がつらくなった時は、こういう働き方の選択肢(テレワーク、時差出勤、業務軽減など)も準備できているよ」と会社が配慮することができる選択肢を提示するのが望ましいです。

対話によって変わった未来

後日、A様は改めてじっくりと対話の時間を持ちました。

前の提案は言葉が足りなかった。君に出産後も我が社で持てる能力を最大限活かして働いてもらいたいと思っている。
ただ、妊娠中は体調の変化も大きく母子共に負担のかかる業務があれば調整させてもらいたいと思っている。今の業務を続けていく中で、どのような働き方がベストか一緒に考えてみないか?

そう伝えたところ、彼女の表情は一変したそうです。

すると彼女は「本当は今のプロジェクトを最後まで見届けたい。でも、検診の日は早退させてもらえると助かる」と、本音を話してくれました。

結果として、彼女は現在もこれまで携わっているプロジェクトのリーダーをしながら、体調に合わせて出社の時間を調整したりして、可能な限り負荷の係らない働き方をしながら安心して出産に向けた準備を進めれているそうです。

最後に

法律や制度を知ることは大切です。しかし、それ以上に大切なのは、対話を通じた会社と従業員との「信頼関係の構築」です。

ハラスメントの防止は、単なる法的リスクの回避だけではありません。ハラスメントがない状態は、大切な社員が安心して力を発揮し続けられる環境となります。

従業員との対話や育休に関連する制度の伝え方が難しく感じたりした時は、いつでもお気軽にご相談ください。

社労士として、経営者様と従業員様の双方が笑顔になれる解決策を、一緒に見つけてまいります。